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月刊 神戸っ子 Vol.501


< 岩田 弘三 × キラン・S・セティ >

「グローバル化に向かうには量から質への変換が必要」

神戸経済同友会で代表幹事を務める岩田さんは神戸JCのOBでもある。ロック・フィールドの健康お惣菜は、いまや神戸ブランドの代表にもなった。キラン理事長と豊かさについて、神戸JCのあり方など、新時代に向けた前向きなお語をいただいた。

自分を再発見できた経済同友会での2年目

岩田 以前に神戸JCシニアの会で、キランさんが挨拶されるのを伺ったことがあり、国際派で神戸らしい素晴らしい人が次年度の理事長になられるのだと思っていました。僕はあと2ヶ月で神戸経済同友会の代表幹事の任期を終えますがこの2年近く、同友会活動をバランスシートで振り返りますと、まず時問の問題が大きかった。それまでは毎週2~3回は東京へ出張していました。また、多い年には、年間100日は海外に行っていましたが、この2年間は、同じ週2回でも東京出張が神戸へのトンボ帰りで出張が寸断されることが多く、海外へも思うようには行けませんでした。先日など1週間に28時間も新幹線に乗っていたのですよ(笑)。しかし時間はとられましたが、それにも優り得たものの方が多かったように思います。それまでは完全に会杜中心にしか考えていなかったのが、東京や富山、高松など全国の同友会の会合に出かけてメンバーや講師の人達をはじめ、いろいろな人との出逢いがありました。新たな分野の知識を得るきっかけにもなりました。会社以外に軸足を置くことで、外から会社を見るなど、結果的には、いろいろな面でのプラスがあり、感謝しています。

キラン 歴代JCの会長や、同友会の方々が言うことはみんな共通していますね。こういう活動をしていると、当然仕事の時間は減りますよね。しかしそれによってプラスに働くことが多いのだと思います。

岩田 代表幹事という役割に対して、お受けする以上、ベストを尽くしたいという思いもありましたね。役を引き受けるときに、「仕事のやり方はこれまでと変わるから、いろいろと手助けして欲しい」と杜員に言ったのです。私が留守にしていることで、社員にとっても成長のチャンスだったのですね。2年間で社員が大きく成長してくれたことが、結果としていちばん良かったことかも知れません。同友会は個人の資格で入り、自由な発言ができます。私は自已主張の強い人間です。しかしそれを受け入れてもらえたことで、会社の中では見えにくい自分の姿を再発見することができました。JC時代にもっと一生懸命やっていたら、もっと成長していたかも知れませんね(笑)。JCの頃は、会杜を興したばかりで、経済的にも時間にもいちばんハングリーな時代でしたからね。

キラン 人が何かに取り組むときは、タイミングがいちぱん大きいですよね。人によってそれをやるべきタイミングというものがあるのだと思います。辛かった経験も振り返ると懐かしい。

辛かった経験も振り返ると懐かしい

キラン 岩田先輩は31歳でロックフィールドを設立したと聞いていますが、それ以前はどのような仕事をされていたのですか。

岩田 神戸でレストランをしていたのですよ。

キラン では調理した食品を、大量に売るという発想はどこから来たのですか。

岩田 僕は日本が欧米のコピー、キャッチアップの時代の中にいましたから、欧米へ研修によく出かけました。そんなときにパリ、ミラノ、ミュンヘンなどヨーロッパの街角のいたるところにあるデリカテッセンに出逢ったのです。レストランなどでの食事を外食、家庭内で調理した食事を内食と呼ぶとき、持ち帰りできる食事を中食と呼びます。日本の食生活は必ず欧米化していくと考えていました。女性の社会進出や、核家族化の流れを見ていて、これからは中食だと確信したのです。僕は日本のライフスタイルがどう変わっていくのかをずっと見てきました。これまではアジアを跳び越して一気に欧米化し、それが今、振り子の針が戻るように、アジア回帰、日本(和)回帰が始まっています。

キラン 会杜設立から今日に至るまでには、辛い時期もあったと思うのですが。

岩田 人間の素晴らしいところだなと思うのですが、悲しいことや辛いことはノスタルジーとして懐かしく思い出に残っていても、そんなに痛みを感じたという思いはありませんでした。しかしお金と人材には苦しみましたね。あと全く新しい分野だっただけに、はじめは誰にも認めてもらえませんでした。例えばファッションも、もともとは家で服をつくっていたのが、完成品を買うのが当たり前になって来ています。それと同じことを食事に当てはめているだけなのですが、女性の社会参を応援するそうざいということが、当時は杜員でさえなかなかそれを認めることができなかったわけですからね。そう思いながらやっていると情けない思いをしましたね。いまではそういう社員はおりません。全く白紙の分野だったからこそ、大きな可能性があったのだと思っています。

「豊かさ」とは何か いま考え直すべきとき

キラン 僕は37年前に神戸で生まれたのですが、岩田さんの話を聞いていると、その間の時代の変化を感じますね。日本やアジアの文化は、年上を大切に、女性は家に男性は外に、子供は学校にといった、決まりの中で生きているように感じていました。しかし社会とは、裕福になる過程で変わっていくものだと思うのですよ。外食や中食がいま伸びているのは、社会の優先順位が変わってきたからだと思います。

岩田 そうですね。欧米では先進国として、すでに女性が杜会へ進出し、家事労働とは違う部分で女性の力が活かされています。欧米だけではありません。ベトナムでは、企業や役所の幹部にお会いすると余りにも女性が多いのです。それで一度「ベトナムの男性は怠け者なのか?」と聞いたところ、ひどく怒られましたね(笑)。「男性は昔から戦場に赴き、これからもいつそうなるかわからない。だから女性が家庭と会社を守るのは当たり前だ」と言うのです。それを聞いて平謝りしたのですが、あまりに日本人の考え方との違いに驚きました。中国でも革命後は、一人っ子政策などで女性がどんどん社会に進出しています。では日本はどうかというと、やはり少子化で女性の杜会進出はさらに進んでいきます。そのなかで、家庭をバックアップするシステムができるかが重要なのです。女性が家を離れるとき、誰が子供の面倒をみて、食事は誰がつくるのかということです。欧米とは違う、日本社会の中に私たちの中食の役割があるはずなのです。

キラン 今後杜会はもっと変わっていくはずです。いま働き盛りの30代や、もっと若い大学生などの若い世代がどうなるかにかかっています。現実的に日本人は金を持つと保守的になりますよね。ほとんどの人が、儲けたお金を銀行にしか預けようとしません。人がお金を産む時代から、機会がお金を産む時代に変わり、いまやお金がお金を産まなきゃならないような時代になっていると思うのですよ。

岩田 いまはちょうど過渡期でしょうね。「豊かさとは何か?」についてみんなが考えるべきときなのです。かつて日本は、アメリカやヨーロッパが豊かだと思っていました。日本では高度成長期に、家庭にテレビや自動車、冷蔵庫が普及していきました。冷蔵庫を例にとると、はじめはドアがひとつだったのが、2ドア、3ドア、4ドアと増えていき、その度に冷凍庫や野菜室など新しい機能が増えていきました。そして冷蔵庫が大きくなると、冷凍食品を買いだめし、それを電子レンジで温めることが豊かさだと思っていたのです。しかしこれは豊かさではなく単に便利になっただけです。日本人は冷凍工食品を食べ、ベトナム人は新鮮な野菜や、ブロイラーではない鶏肉などを食べている。つまり食生活については、彼らの方が豊かなのです。日本人はこれまで「豊かさ」と「便利さ」を一緒にしていたのです。これからの時代、日本人は真の豊かさを求めていかなければなりません。

キラン いちばん重要なのは心の豊かさだと思うのです。人に何をしてあげれたか、誰とどういう時間を過ごし、何ができたかがもっとも大切なことです。僕は仕事でよくアフリカのナイジェリアに行きます。治安も不安定で、観光には薦めない怖い国ですが、まちにいる人がみんな笑っているのです。これもひとつの豊かさだと思うのです。彼らにとって誰もが持っているのは笑顔なのです。自分たちが持っているものを、有効的に使えることが豊かさだと思うのです。お金も同じです。ある人から聞いた話ですが、お金は川と同じことなのです。流さずに堰き止めて溜めすぎると、いつか自分自身が溺れてしまうでしょう。

暮らしやすいまち神戸の豊かさを生かして

岩田 ニューヨークのフォーシーズンホテルに泊まると、とても緊張感のある快適さがあります。しかしバリ島のフォーシーズンやバンコクのスコタイは、心身ともに癒されるというか、日本でのストレスが全て流されてしまうのです。ニューヨークではそう言うわけにはいきません。神戸を含めて京阪神の次の可能性は、そこにあると思うのです。東京とは対極にある、違った豊かさを求めていくべきでしょう。

キラン 僕もそれには賛成です。いつも一言っているのですが、日本で神戸ほど住みやすいまちは他にありませんからね。

岩田 神戸には山があり海があります。同友会でも六甲山をもっと大切にしていこうという提言をしています。海に関して言うと、神戸はあまりにも港湾や海運と結びつけすぎているような気がするのです。西宮、芦屋あたりから須磨、垂水までを含めだベイエリアは、港湾や海運船だけでは使い切れない広大なスペースがあります。もっと住空間としても利用するべきなのです。きちんと整備すればアジアのなかの避暑地・避寒地になれるはずなのです。アメリカではリタイアした後、カリフォルニア州、特にサンディエゴに移住する人が多いのです。理由は気候がいいからです。そういう意味では、神戸はサンディエゴと全く同じ役割を果たせる可能性があります。食事も美味しいですよ。

キラン 神戸には外国人が約5万人も住んでいます。中国、韓国などアジア系の人から、欧米の人、もちろんインド人などいろいろな国の人が住んでいます。人口に対する外国人の比率は、全国でもかなり多い方です。しかも東京や大阪の外国人は、出入りが激しいのに比べて、神戸はほとんどの人が腰を据えて暮らしています。大阪で仕事をしながら、神戸に住んでいる人もたくさんいます。外国人は暮らしやすいところにしか住まないのですよ。国際化とよく言いますが、国際化と言わなければならないまちは、真の国際化を果たしていないまちなのです。神戸は世界と対等につき合えるまちになれるはずなのです。

多種多様化の時代神戸JCに女性会員を

岩田 いま神戸は、ある意味良い転機なのだと思います。厳しい状況は続いていますが、「駄目だ」とばかり言っているのではなく、可能性に向けて動くべきときです。マリナーズのイチローがインタビューに応えていたのですが、左バッターにとって、2塁手から右側にボテボテのセカンドゴロを打つのはものすごい失敗なのだそうです。しかし開幕から不振が続いたある時、ボテボテのセカンドゴロから、「捜し求めていたタイミングと体の動きを一瞬にして見つけることができた」そうです。失敗から学ぶことの大切さを教えられた気がしましたね。

キラン しかし現実では、日本社会は失敗を許さない風潮がありますよね。

岩田 日本ではこれまで、敗者復活戦が許されていなかったのですよ。しかしそれも、これからの未来は、変わっていくでしょうね。日本は戦後、奇跡的な経済発展を遂げましたが、いまそれが重荷になってきているのです。国家でも会社、個人でも全てが良いということはあり得ません。体と同じです。良いときに悪いところを治していけばいいのです。日本杜会も同じです。そういう意味では、バブル絶頂期に治していければ良かったのですが、過ぎたことを言っても仕方ありませんし、80年代の日本に戻るのは、ただの苦痛でしかないでしょう。

キラン それはいちばん意味のないことですよね。日本社会全体が、豊かさの意味を見つめ直さなければ何も変わってはいけませんからね。

岩田 豊かさを求めるとき、物質的な豊かさも大事ですが、要はバランスが大切なのです。我々が杜会を見つめ直し、再スタートできれば、変わっていくのだろうと思います。まずは志とヴィジョンが大切なのです。そのためには得るものと無くすもののバランスを見極めなければなりません。ロック・フィールドでも、はじめは高級なヨーロピアン・デリカテッセンを扱っていました。それを日常的なものに切り替えるときには、社員からも反対の声が挙がりました。社員としても高級食材の会杜という方が格好いいじゃないですか(笑)。しかし結果として、得るものの方が大きいという確信があったので、迷わず方向転換することができたのです。

キラン 岩田さんの話を聞いていると、すべての成功の秘訣は、前向きであることだと感じます。ボトルに3分の1ある水を、「これだけしかない」と思うか「まだこんなにある」と思うかの差だと思うのですよ。ヴィジョンさえしっかりしていれば、そこまでのプロセスで何度失敗しても大丈夫ですからね。

岩田 神戸JCがよりグローバル化に向かうためには、いまは量から質への転換期だと思います。人種、男女など、多様性がこれから益々重要になってきます。以前からJCには女性会員もいますが、やはりまだまだ男性社会です。もっと女性会員を増やすことで、新しい神戸JCらしさが出てくるはずです。

キラン 正に今年の目標は多種多様化なのです。英語で言うとダイバシティです。女性会員を増やすための活動も、徐々に増えていっています。広報活動などで、まずは神戸JCの活動内容を知ってもらうところからはじめなけれぱいけませんよね。

岩田 日本の発展はダイバシティとは対極にあったと思うのです。同質化により急成長を果たした杜会ですから。基本的に杜会は男性中心です。しかし消費の中心は女性であり、家庭での決定権も女性であることが多いですよね(笑)。JCや同友会も含めて、企業や政治、あらゆる団体が男性中心だから、わかりづらいことが起こる。そういう意味では、アメリカ国籍を持つインド人で、日本生まれの日本育ちというキランさんは、ダイバシティの象徴のような存在ですよね(笑)。

キラン・S・セティ ピッツパーグ大学経営学修士修得。 (株)ジュピターインターナショナルコーポレーション取締役専務。 2003年度、(社)神戸青年会議所第45代理事長。

岩田弘三 (社団法人神戸経済同友会代表幹事・株式会社ロック・フィールド代表取締役社長)

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