シスメックス株式会社代表取締役 家次 恒氏に聞く Mr.Hisashi Ietsugu,President and CEO of Sysmex Coporation
【2003年05月】 Wakai Chikara 若い力 No.59より シスメックス株式会社代表取締役 家次 恒氏に聞く Mr.Hisashi Ietsugu,President and CEO of Sysmex Coporation,Kobe based medical equipment maker,Vice President of the Kobe Chamber of Commerce 'The Shining Corporation of Kobe'
シスメックス株式会社代表取締役 家次 恒氏に聞く
キラリと輝く神戸の企業リスクをとらないということが、実はいちばん大きなリスク
1960年、創業者故・中谷太郎氏のアメリカ視察。時代の潮流を医療だと見定め、技術もマーケットも無い、
全く未知の医療機器の分野にチャレンジ。血球計数装置の専門メーカーとして、3名の研究からスタートして以来、
ニーズに応じた、常に最先端のテクノロジーを駆使した臨床検査機器等の研究・開発。現在、世界125カ国以上に製品を輸出する、その分野のフロントランナー、シスメック株式会社。変革の時代の中、神戸に根ざす企業として、またグローバルに活動する企業として、時代の潮流・潮目をどう捉えているのか?神戸商工会議所副会頭でもある、家次 恒社長にお話を伺いました。
転換していかなければならない
神戸経済の次代を担う家次社長が語る神戸の“潮目”とは?
あと2年で震災10年を迎えます。傷は確かに大きいですが、いつまでもそう言っていられません。重厚長大型産業から軽薄短小の時代と呼ばれたとき、産業転換がうまくいきませんでした。ベルリンの壁崩壊後のグローバルな時代を迎えてからも、神戸の産業がドメスティックマーケットを主体としていたため、日本の高コスト体質をそのまま引きずってしまい、競争力が非常に弱くなってしまいました。現在、震災のダメージは確かに大きいのですが、ある意味、震災がなくてもダメージを受けていたと言えるかもしれません。そういう中で神戸には次のエンジン、転換が必要だと思います。世界の大きな潮流から見ると、明らかに「こうならざるを得ない」という動きがたくさんあります。そういうものにはやはり乗っていかなければいけません。医療産業というものは、そういう意味で21世紀の成長産業だと思います。いくつかある中で、一つは高齢化社会の問題。日本だけではなく先進国すべからくこういう問題を持っています。もう一つには、中国のようなエマージングマーケットと呼ばれるところでは、経済のレベルが上がるにつれて医療・健康が重要視されてきています。そういう中で、神戸の医療産業都市構想というのは大変時代に適っていると思います。ビジネスの社会で絶対言えることは、需要がないとだめだということです。基本的には世の中に逆らってはいけません。確かに、先細っていく産業と思われるところにも光のあるところはありますが、それはそれで転換が必要です。もう一方、技術というもので新しいものを創りだし、価値を生む。技術的に優れたものは確実にグローバルでも戦えます。場合によっては新しい“潮目”を創っていく可能性があります。これも非常に重要なことですね。
次の世代、あるいは次の次の世代に評価されることを
神戸医療産業都市構想に参画しているシスメックス株式会社。 先端医療特区の認定を受け、神戸がこれから目指すところとは?
医療産業都市構想は現在のところ先端医療・再生医療中心で、どちらかというと研究的です。
企業には研究・開発・生産・販売というプロセスがありますが、その研究の部分がようやく出来たという状況です。先端医療センター等が完成しましたが、“開発”という部分がないと一般的にはイメージが湧きにくい。あるものを研究していても、それが「何の役に立つのだろう?」「自分たちにどういう関係があるの?」という話になってしまいます。そういう意味で、もう一つの要素として“臨床”の場というものが必要になるでしょう。神戸に必要なのは先端医療と同時に先進的な医療です。個人的には、次のステップとして、がんセンターのような専門病院が、ある程度集積していかなければいけないと思います。総合病院ではなく、それぞれの専門病院がいくつも集まっているといったイメージです。そうなれば、研究と臨床の場が上手く結び付き、ニーズが生まれます。医者と産業界の共同研究なども生まれてくるかもしれません。先端医療特区の認定も受け、ファーストステップを踏み出しました。まずは、先端医療特区で成果を上げ、ステップbyステップで着実に進んでいかなくてはなりません。これからは地元産業界・行政を含めあらゆる人たちが結集していくと同時に、国内外を問わず、つながりを作ることが必要となってくるでしょう。すぐに結果の出る話ではなく、我々の世代が評価するものでもないでしょう。「次の世代、次の次の世代に評価される」。そういう風に思って、ロングスパンで 物事を見ていく必要があるのではないでしょうか。
やらない限り何もでない。原因を作らない限り、絶対に結果はない。
特区の出現、規制緩和が叫ばれている昨今、その流れの中で、家次社長の企業経営のポイントとは?
特区・規制緩和。特に日本の医療というものに関していいますと。日本の医療レベルは非常に高いところにあるにもかかわらず、日本人のためにというのが前提となってしまっています。
21世紀の時代、医療で世界・アジアに貢献するということを考えていかなくてはいけないでしょう。アジアの人たちが日本・神戸に治療に来る。アジアの人たちも望むし、こちらも望む。ニーズが生まれてビジネスが成り立つわけですよね。関空や神戸空港といったインフラをうまく活用して、「神戸がアジアのメディカルセンター」となればいいですね。現在、確かに日本の経済は非常に悪い。しかし、日本はマーケットのポテンシャリティー、絶対値からすると、結局はビジネスが成り立つ国なんです。確実にうまくやれば需要がでて来る。もう一方、日本では規制という問題もあります。しかし、これも明らかに壊れていく方向にあるでしょう。 ですから、我々は壊れることを前提に準備しておかなければいけません。ゲートが開いてからスタートしているようでは、待ち構えている、欧米のウォーミングアップ万全の企業に対して、勝てるわけがありません。一斉にスタートしても負けるかもしれないのに、出遅れれば致命的です。規制があるから出来ませんというのは言い訳でしかないんです。出来ないことはわかっている。しかし、それに対して備えることまで規制しているわけはないのです。企業経営の中で、いろいろな局面に出会います。その判断の中ではリスクの大きさが非常に大事です。何かが起こったときに、じゃあどれだけのリスクがあるのかということを見極めることが必要です。会社として許容でき、屋台骨さえ崩れないのであれば、積極的に挑戦すべきです。得点能力がなければ、今の時代はだめなんです。
日本の多くの企業のやっているリストラというのは守備能力であって、いいとこドローしかない。
得点能力がない限り勝てないわけです。得点能力をつけるということは、積極的にチャレンジする。企業活動でいう投資をしていかなくてはいけないと思います。やらない限り何もでない。原因をつくらない限り、絶対に結果はないんです。皆、結果を求めているいるが原因をつくっていません。幾つかの行動の中から、初めて一つのいい結果というものが得られるものです。絶対成功するものしかやらないというのは、絶対といわれる中のほんの数パーセントのリスクでやられてしまう。多くの人がバブルの時、資産デフレが起こるというリスクを想定すらせず、皆がやるから絶対にいけるとあらゆるものに投資し、失敗しました。実はリスクをとらないということがいちばん大きなリスクなんです。
チャレンジと実行力
45周年を見変えた神戸JC、50周年へ向けたこれからの5年。
家次社長の期待する神戸JC・青年経済人とは・・・。
全てがお膳立てされている環境というものは、必ずしもいい環境とはいえません。神戸というのは、そういう点である意味、非常にいい環境にあるのではないでしょうか。過去は総括・反省をする上で大事なことですが、それに引っ張られないで、前に目を向け進んでいく。自分たちが転換させていかなければ、という気持ちでチャレンジして欲しい。そしてこれからはドメスティックに神戸だけだとか、近畿だとか、東京をベンチマークにしてどうこうしているレベルではだめです。
相対的な競い合いから、絶対的な競い合いへ、マークするところを換えていかなくてはいけません。また、後追いではないチャレンジもたくさんやって欲しいですね。今の時代は変化のスピードが速いから机の上で考えていてもだめです。とにかく実行力。「これくらいのリスクなら一度やってみようか、だめだったらやめたらいい」というくらいの気持ちで。文化的な活動の上でも、どこかのまねだとか、アイデアの切り貼りをするのではなく、自分達で創意工夫を凝らして挑戦して欲しい。今は日本そのものがオリジナリティーを問われている時代です。神戸は神戸らしさを追求し、世界で評価される形にする必要があります。自分達で編み出し、チャレンジしていってください。